上昇気流

細々とひとりごとを呟き続けています。

冬の足音

朝9時に夜勤明けで仕事が終わった。一昨日まで名残を惜しむように秋の高い青空をのぞかせていた空は、昨日の夜から雲に覆われた。気温が急激に下がり、冷たい雨が降り続いた。短い秋が終わり、暗く長い冬の訪れを予感させる。田んぼには、白鳥の白い姿が見える。もう、冬は、すぐそこまで来ている。

帰り道、ちょっと遠回りして、駅前の寂れた商店街へと足を延ばした。どんよりとした空の下、雪よけのアーケードが続く駅前の商店街は、朝の10時だというのに赤い錆の浮いたシャッターが続いている。しぶとく残っている数少ない店は、決して明るいとは言えない電気を灯しながら、虫食いのようにまばらに営業している。通りを歩く人の姿もまばらで、店の奥では年老いた店主が時間を持て余したように、テレビを見ている。

客のいない小さなパン屋に立ち寄ってみた。パンを3つ買った。フランク、チョコレートデニッシュ、カレーパン。カレーパンには、「こだわりのビーフカレーが詰まっています」という小さなポップがつけられていた。パン屋のカレーパンには、往々にして、その店のこだわりが詰まっている。カレーパンの美味しいパン屋は、他のパンも美味しいことが多い。

レジでお金を払う。商店街のキャラクターの書いてある小さなスタンプを4枚もらった。スタンプには、「平成32年3月迄有効」と書いてあった。このスタンプの有効期限が切れる頃、この店は、この商店街は、そしてこの街は、いったいどのような姿を見せているのだろうか。そして、私自身は。

寮に着いて、スーツを脱ぎ捨て、ポットに水を入れて線をつなぐとすぐに、シャワー室へと向かう。夜勤明けの熱いシャワーが好きだ。睡眠不足で固まっていた体に、温まった血が行き渡っていく。体がほぐれ、内側から、目覚めていく。

部屋に戻るとお湯が沸いている。すぐにコーヒーを入れ、砂糖をたっぷりと入れる。椅子の上で毛布にくるまり、暖かいコーヒーを飲みながら、朝買ってきたパンを食べる。遅い朝食。甘く、暖かいコーヒーが、さらに体を内側から温める。感覚が鈍くなり、急に、眠気に襲われる。

小さなパン屋のカレーパンは、美味しかった。これから、たまに、立ち寄っても良いと思う。10年後、スタンプの有効期限が切れる頃、こんな朝があったことを私が覚えているかは果たしてわからないけれど、この街で、こうしていることが、今この瞬間にも私を作っていく。